脱炭素とはCO2を排出しない訳ではない!地球温暖化を防ぐ最新技術も紹介
脱炭素という言葉をよく聞くようになりました。
炭素を脱するという意味であることはわかるけれど、それ以上のことはよくわからない人も多いのではないでしょうか。
今回は、知らないでは困る「脱炭素」について基礎知識から素朴な疑問、そして最新の技術までわかりやすく解説します。
脱炭素とは
脱炭素という言葉は、地球温暖化と関係しています。とくにIPCC(気候変動に関する政府間パネル)が2021年8月に第6次評価報告書を発表してからは、日本でも「脱炭素」という言葉を頻繁に耳にするようになりました。まずは「脱炭素とは何か」そして「脱炭素しなければならない理由」を説明します。
IPCCとは
IPCC 第6次評価報告書 第1業部会(WG1)報告書 気候変動 2021:自然科学的根拠 政策決定者向け要約』暫定訳(2021/9/1付)|国土交通省 気象庁
脱炭素とは
脱炭素とは、地球温暖化の原因である「CO2排出量をゼロにしよう」ということです。以前は脱炭素ではなく低炭素を目指した時代もありました。しかし、低炭素では地球温暖化の歯止めにはならないことがわかったのです。
脱炭素とは「世界から一切のCO2を消す」ということではありません。CO2排出と経済発展は反比例の関係に近いため、一切のCO2を消すことは現実的に不可能でしょう。脱炭素は、CO2を排出しても大気中に温室効果ガスとして排出するのではなく、排出した分だけ回収することで、プラスマイナスゼロにするということです。
脱炭素しなければならない理由
「多少の気温上昇より経済発展させたほうがいい」と考える人がいるかもしれません。たしかに新型コロナウィルスなどの影響で明日のことすら不安定な状況では地球の未来まで考える余裕はないかもしれません。しかし、地球温暖化は今すぐ行動をしても、その効果が出るまでに約20年かかります。私たちの子ども世代の未来は、今を生きる私たちにかかっています。
脱炭素しなければならない理由は「あまりにも温暖化のスピードが速いため、少しでも温暖化を遅らせる必要があるから」です。
今すぐ地球温暖化を止めることはできません。IPCCの報告書では、どんなに頑張っても2040年までに地球の平均気温は1.5度上昇する報告がされました。そして、引き続き脱炭素を継続すれば2080年以降は1.4度上昇で食い止めることができるとも言っています。
ただし一方で、脱炭素どころか今よりもCO2を排出する生活を続ければ2080年以降は4.4度上昇すると予測しています。2080年といえば、今生まれた子どもが60歳です。
4.4度上昇すれば資源がなくなり、自然災害や病気は増えます。経済発展どころか明日の命を守ることで精いっぱいの時代になってしまうのではないでしょうか。
脱炭素のよくある疑問Q&A
炭素は何に含まれていてどうしたら排出される?
炭素は、さまざまなものに含まれています。炭酸水やふくらし粉など食べ物にも含まれています。
温室効果ガスとして注目されている二酸化炭素を化学式で表すとCO2です。炭素Cと2個の酸素Oがくっついたものです。つまり、炭素単体ではなく酸素と結びつくことで二酸化炭素になり大気中に排出されます。
石油や石炭そして天然ガスなどの化石燃料は、今から数百年から数億年前の植物や生物の死骸に圧力が加わってできたものです。化石燃料は炭素Cの塊です。
化石燃料は燃やすことでエネルギーになります。燃やせば大気中の酸素と結びつきCO2つまり二酸化炭素になるのです。
少しでも炭素が含まれている物を燃やせば二酸化炭素は発生します。化石燃料を材料にしたプラスチックはもちろん、紙や布や食べ物などほとんどの物に炭素は含まれています。
脱炭素とCO2削減は同じこと?
脱炭素とCO2削減の意味は違います。脱炭素は、排出されたCO2(二酸化炭素)を回収したり再利用したりすることで地球に悪影響を与えないことです。
一方のCO2削減はCO2をできるだけ出さないようにすることです。大きな違いは、脱炭素はCO2を出さないのではなく、影響を出さないようにすることで、CO2削減はCO2自体をできるだけ排出しないレベルにまで少なくすることになります。
たくさんのCO2を出してしまうと、回収や再利用しきれなくなってしまいます。つまり、脱炭素はCO2削減とセットで考える必要があり、CO2削減あってこその脱炭素ともいえるのではないでしょうか。
脱炭素と2050年達成目標のカーボンニュートラルは同じこと?
脱炭素とカーボンニュートラルは、とても意味が似ていますが言葉の使われ方に違いがあります。
2050年達成を目指しているカーボンニュートラルは排出するCO2と吸収や再利用されるCO2の量が等しくなっている状態を意味しています。
脱炭素は、カーボンニュートラルの状態にある社会を意味して使われることが多いようです。脱炭素は政策や目標で多く使われ、カーボンニュートラルは客観的な説明などで多く使われています。
脱炭素にむけた最新技術
© NHK
脱炭素が求められる中で、世界中が最新技術で脱炭素社会にむけて立ち向かっています。ここからは、未来の希望ともいえる最新技術を紹介します。
アンモニアを使った発電
発電は、石炭を燃やす火力発電が大きな割合を占めています。しかし火力発電はCO2排出量が多く、脱炭素の大きな壁となっていました。そこで注目されたのがアンモニアです。アンモニアは、燃やしてもCO2が出ません。石炭とアンモニアを混ぜて燃やすことで、CO2排出量を減らすことができます。
日本のアンモニアを使った発電技術は世界でも突出しています。伊藤忠商事はアンモニア事業を強化し、IHIはマレーシアの最大手電力会社と提携し火力発電所からのCO2削減に取り組みます。マレーシアの電力の半分は石炭による火力発電のため、CO2削減への影響は大きいでしょう。
IHI アンモニア使った発電事業へ マレーシアの電力会社と連携|NHKニュース
大手商社 「アンモニア」事業を強化 二酸化炭素の排出量抑制へ|NHKニュース
IGCC「石炭ガス化複合発電」
©OSAKA GAS CO.,LTD
今までの火力発電は、石炭を燃やして蒸気を取り出し発電していました。IGCC(石炭ガス化複合発電)は、石炭を燃やすときに酸素を加えて蒸気だけでなく可燃性ガスも取り出す方法です。
IGCCによってCO2排出量は15%減ります。さらにIGCCは今まで使用していた石炭よりもレベルや質が劣っても利用することができます。
IGCCによってCO2排出量は15%減りますが、まだ85%のCO2が残ります。残った85%のCO2を分解し90%を回収します。回収したCO2に水素を加えてメタンを作ります。メタンは天然ガスと同じです。エネルギーとして使うことができます。メタンを作り出すメタネーションは、脱炭素のキーワードとして注目されています。
脱炭素化のキーテクノロジー「メタネーション」|Daigasグループ
これからの課題
脱炭素にむけてアンモニアの活用やIGCCのような素晴らしい技術開発が進んでいます。しかし2050年カーボンニュートラルを実現させるためには、原子力の活用も考えなければならないとも言われているのです。
原子力発電のメリットとデメリット、脱炭素社会の実現のバランスを考えることがこれからの課題なのかもしれません。
脱炭素にむけて私たちができること
脱炭素は、発電などの大きな取り組みも大切ですがカーボンニュートラルを目指すには私たち個人の取り組みも求められます。ここからは、私たちが脱炭素にむけてできることについてお話しします。
脱炭素をやらなければならないことではなくチャンスと考える
脱炭素を「プラスチックを使ってはいけない」「電気も使ってはいけない」と考えるとつらくなります。
しかし脱炭素によって再生可能エネルギーが生み出され、新しい産業が誕生します。新しい産業は雇用を生み出し経済効果があるでしょう。脱炭素を「やらなければならないこと」と考えるのではなく、雇用が生み出されるチャンスと考えることで前向きに取り組むことができます。
炭素を含んでいる物を知る
脱炭素は知識を得ることで効果的に進めることができます。炭素を含む物がダイヤモンドしか思い浮かばなければ「ダイヤモンドを燃やす人はいない」で終わってしまいます。
私たちの生活で使うほとんどの物に炭素が含まれていることを知ることで、脱炭素が身近なことであることに気がつきます。
物の使い方と物の最後を考えた行動をする
ひとり一人が、炭素を含む物を知り、最後は燃やされてCO2を排出させることを知れば行動が変わります。物にあふれた生活は無駄にCO2を排出する生活です。
脱炭素は物とつながっています。物の使い方と物の最後を考えた行動をすることは、脱炭素への取り組みといえるのではないでしょうか。
おわりに
2021年10月に真鍋淑郎氏が、二酸化炭素の地球温暖化影響の研究が評価されノーベル物理学賞を受賞しました。
真鍋氏は「好奇心が大切」と言っています。私たち個人にも同じことが言えるのではないでしょうか。
私たちひとり一人が未来の地球の様子に好奇心をもち、今の生活の影響を考えることが脱炭素への一歩になります。
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