CO2排出量の計算方法|サプライチェーン活動まで算出するって本当?
2021年3月に「地球温暖化対策の推進に関する法律」が一部改正されたことで、地域の再エネを活用した脱炭素化の取り組みや、企業の排出量情報のデジタル化・オープンデータ化を推進する基盤が整い始めています。
そして、これまでCO2の排出量を算出する義務がなかった企業も、CO2排出量を正しく計算することでメリットが得られる可能性が出てきました。
企業単位だけでなく個人単位でも、CO2排出量の計算方法を知っておけば、例えば将来的に「家庭等で一定量の削減に貢献した人に給付金を出す」などの制度が新たに生まれた時、データがあれば証明も楽になるでしょう。
もちろん、このような意見を非現実的だと考える人が大半かもしれませんが、国民一人ひとりがCO2排出量のこと・具体的な計算方法や計算を必要とする背景について理解を深めていくことは、地球の未来を考える上でとても大切なことです。
この記事では、
・なぜわたしたちはCO2の排出量を計算すべきなのか
・計算にあたっての基準や計算方法にはどのようなものがあるのか
について解説します。
企業・個人単位でCO2の排出量計算が必要になった背景とは
日本では、少なくとも個人単位においてCO2の排出量計算が義務になっているわけではありません。
例えば、自分が暮らしている市町村に対して「家庭から出る毎月のCO2の量」を逐一報告する義務がないように、大多数の個人は家庭単位でCO2排出量を計算する習慣がないものと思われます。
しかし、各種法律の改正にともない、一定の規模以上の企業には以下のことが求められています。
・CO2排出量の算定と報告(デジタル化)
・報告された情報のオープンデータ化(情報の公開)
つまり、報告が義務付けられた企業にとって、CO2の排出量計算は不可避なのです。
企業であれば担当者が計算・報告すれば済む話かもしれませんが、これが特定の個人事業者にも義務付けられることは、将来的にあり得ない話ではありません。
山梨県の取り組みについて
例えば、ぶどう農家を営んでいる家なら、木の枝を剪定した後、それを畑で燃やす習慣があります。
こちらは特例として認められている行為ではあるものの、景観を損なう・CO2排出の観点から問題があるなどとして自治体等が規制をかけた場合、そのプロセスでCO2排出量の計算が必要になるかもしれません。
もも・ぶどう農家が多い山梨県では、冬場に多くの枝を剪定することから、野外焼却ではなく専用の「炭化器」を使って枝を炭にし、それらを土中に埋めCO2の排出量削減を行う取り組みを行っています。
また、そのような取り組みで収穫した農産物を「環境に優しい植物」としてブランド化する計画も進められているとのことです。
こういった取り組みが全国各地で行われるようになり、より環境に配慮した商品が売れる仕組みが整い始めたとき、すでにCO2排出量計算に取り組んでいる人とそうでない人とでは、対応スピードに大きな差が生じます。
よって、企業・家庭ともに、CO2排出量の計算に馴染んでおくことは、後々のアドバンテージになるものと推察されます。
山梨県、農業で「脱炭素」推進 4‰活動でブランド化も|日本経済新聞(有料会員限定)
CO2排出量計算にあたっての国際的な基準について
実際にCO2排出量計算に取り組む場合、公式や計算方法を知りたいと考えるのは自然なことですが、実はその前に知っておくべきことがあります。
それは、CO2排出量計算にあたっての「基準」についてです。
国際的には、CO2排出量計算の基準は2つ存在しています。
以下に、それぞれの基準について解説します。
生産ベース
CO2は目に見えないため、すべての企業・個人が排出した空気中のCO2を分別して測定するのは、現実的な方法とは言えません。
そこで、多くの国で採用されているのが「生産ベースCO2排出」と呼ばれる推計を用いた測定方法です。
生産ベースの考え方では、ガソリン・電気・ガスなどの使用量(活動量)に、所定の「排出係数」をかけ算して排出量を求めます。
排出国の排出量を測定するわけですから、ある意味ではシンプルな考え方と言えます。
しかし問題点もあり、CO2の排出が行われている国の排出量をカウントする考え方のため、どうしても排出量が【先進国<新興国】という形でカウントされがちな点があげられます。
先進国が製造コストの安価な国に工場を移転した結果、新興国が排出量を増加させてしまっている点は否めず、実態に即した測定方法とは言えないという意見もあります。
消費ベース
生産ベースの問題点を踏まえ、より実態を正確に測る考え方として「消費ベースCO2排出量」があります。
消費ベースでは、製品が生産された際に排出されたCO2を、その製品が最終的に消費される国の排出量としてカウントします。
例えば、自動車を輸出する企業を想定して、以下のように考えてみましょう。
・日本 :エンジンや鉄板などを製造
・インドネシア:日本で製造された部品以外の各種部品を製造
・中国 :部品の組み立てを担当
・アメリカ :消費者が車を購入、利用
上記の例において、生産ベースの考え方を適用するなら、CO2排出量の計算対象になるのは日本・インドネシア・中国の3ヶ国となります。
しかし、消費ベースの場合、最終的にその車を消費する国であるアメリカがCO2の排出国として換算され、日本・インドネシア・中国が排出した分のCO2が「アメリカの排出分」としてカウントされることになります。
CO2排出量の削減は、世界中が足並みをそろえる必要がある
ベースとなる考え方によって国のCO2排出量が変わるということは、見方次第で「どの国のCO2排出量が多いのか」という問いの答えに違いが生まれることを意味しています。
よって、一概に自国の二酸化炭素排出量を削減したところで、問題が解決するわけではありません。
CO2排出量は、すべての国・すべての人間が考えるべき課題の一つであり、協調して問題解決に取り組まなければ、やがて地球全体が人の住めない星になってしまうおそれがあります。
わたしたち個人の立場からも、決して無視できない問題なのです。
CO2排出量計算を定めた法律の対象となるケース
日本において、CO2排出量の計算に関わる法律でよく知られている法律は、
・エネルギー使用の合理化に関する法律
・地球温暖化対策の推進に関する法律
上記の2つが有名です。
以下に、それぞれの法律について、簡単にご紹介します。
エネルギー使用の合理化に関する法律
略して省エネ法とも呼ばれ、石油危機を契機として1979年に制定された法律です。
制定の目的は以下の通りです。
・国内外におけるエネルギーをめぐる経済的社会的環境に応じた燃料資源の有効な利用の確保
・工場等、輸送、建築物及び機械器具等についてのエネルギー使用の合理化
・電気の需要の平準化
・その他エネルギーの使用の合理化等
・上記4点を総合的に進めるために必要な措置を講じ、国民経済の健全な発展に寄与する
法律の中では、以下のような形で義務の対象者が定められています。
【努力義務】
以下の事業者につき、CO2削減のための努力を義務付けている
・工場等の設置者(工場、事業場)
・貨物、旅客運輸事業者、荷主(運送関係)
【報告義務】
一定の規模以上の事業者には、以下の報告義務が課される
・工場、事業場でのエネルギー使用量が年に1,500kl以上の特定事業者
➜エネルギー管理者等の選任、中長期計画の提出、エネルギー使用状況等の定期報告
・保有車両がトラック200台以上等の特定貨物、特定旅客輸送事業者
➜計画の提出、エネルギー使用状況等の定期報告
・年間輸送量3,000万tk以上の特定荷主
➜計画の提出、委託輸送に係るエネルギー使用等の定期報告
地球温暖化対策の推進に関する法律
略して温対法とも呼ばれ、国・地方公共団体・企業・国民が、地球温暖化対策推進のために果たす役割と責務を定めた法律です。
2021年5月に一部改正案が成立したことにより、企業の温室効果ガス排出量情報のデジタル化・オープンデータ化が義務化されました。
CO2排出量の算定・報告・公表の対象企業は、CO2ならびにその他の温室効果ガスの排出量により、以下のように定められています。
【エネルギー起源CO2】
すべての事業所のエネルギー使用量合計が1,500kl/年以上となる事業者
<特定事業所排出者>
・省エネ法の特定事業者
・省エネ法の特定連鎖化事業者
・省エネ法の認定管理統括事業者又は管理関係事業者のうち、全ての事業所のエネルギー使用量合計が1,500kl/年以上の事業者
・上記以外で全ての事業所のエネルギー使用量合計が1,500kl/年以上の事業者
<特定輸送排出者>
・省エネ法の特定貨物輸送事業者
・省エネ法の特定旅客輸送事業者
・省エネ法の特定航空輸送事業者
・省エネ法の特定荷主
・省エネ法の認定管理統括荷主又は管理関係荷主であって、貨物輸送事業者に輸送させる貨物輸送量が3,000万トンキロ/年以上の荷主
・省エネ法の認定管理統括貨客輸送事業者又は管理関係貨客輸送事業者であって、輸送能力の合計が300両以上の貨客輸送事業者
【上記以外の温室効果ガス】
<特定事業所排出者>
次の①および②の要件をみたす事業者
① 温室効果ガスの種類ごとに全ての事業所の排出量合計がCO₂換算で3,000t以上
② 事業者全体で常時使用する従業員の数が21人以上
※出典元:温室効果ガス排出量 算定・報告・公表制度 制度概要|環境省
CO2の排出量にはどのような計算方法があるのか
実際にCO2の排出量を計算する場合、どのような計算方法があるのでしょうか。
以下に、各省庁が紹介している方法をご紹介します。
原油換算
原油換算でCO2排出量を計算する場合、以下の考え方を用います。
① 本社及び全ての工場、支店、営業所、店舗等で使用した燃料・熱・電気ごとの年度間の使用量を集
※(電気・ガスについては、エネルギー供給事業者の毎月の検針票に示される使用量でも可能)
② ①の使用量に燃料、熱及び電気の換算係数を乗じ、それぞれの熱量「GJ(ギガジュール)」を求める
③ ②の計算結果をすべて足し合わせ、年度間の合計使用熱量GJを算出する
④ ③の「1年度間の合計使用熱量GJ」に、0.0258(原油換算係数[kℓ/GJ])を乗じ、1年度間のエネルギー使用量を求める
なお、換算係数については、以下のURLをご覧ください。
CO2換算
CO2換算でCO2排出量を計算する場合、以下の考え方を用います。
①自社の事業活動で、所定のCO2排出活動の中から算定対象となる活動を抽出
②抽出した排出活動ごとに、温対法の政省令で定められている算定方法及び排出係数を用いて排量を算定
温室効果ガス排出量 = 活動量 × 排出係数
③ ②で算定した排出量を、温室効果ガスごとに合算
④ ③で合算した温室効果ガスの種類ごとの排出量を、CO2の単位に換算
温室効果ガス排出量(tCO2)= 温室効果ガス排出量(tガス)×地球温暖化係数[GWP]
なお、排出係数と地球温暖化係数に関しては、以下のURLをご覧ください。
参考:
算定方法・排出係数一覧|環境省
温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度(②算定方法編)|環境省
電気の使用にともなうエネルギー起源CO2排出量の算定
電気の使用にともなうエネルギー起源CO2排出量の算定を行う場合、排出量の算定に際して、他人から供給された電気の使用する点を鑑み、使用する排出係数に以下のような違いがあります。
① 電気事業者から供給された電気を使用している場合
➜国が公表する電気事業者ごとの排出係数
② 電気事業者以外の者から供給された電気を使用している場合
➜実測等に基づく適切な係数
③ ①及び②で算定できない場合
➜環境大臣・経済産業大臣が公表する係数
なお、公式は以下の通りです。
【電気使用量×排出係数=電気の使用にともなうエネルギー起源CO2排出量】
参考:
温室効果ガス排出量 算定・報告・公表制度 制度概要|環境省
温室効果ガス排出量 算定・報告・公表制度 Q&A|環境省
家庭で簡単に使える係数について
先にお伝えした計算方法は、基本的に企業が対象となるものです。
わたしたちの日々の暮らしで消費しているエネルギーから、二酸化炭素の排出量を計算する場合、以下の公式・係数を用いるとよいでしょう。
<公式>
【使用量×係数=二酸化炭素の排出量】
<係数>
・電気(kWh) :0.486kg/kWh
・都市ガス(㎥) :2.23kg/㎥
※(12A規格を使用している場合は「1.91」)
・LPガス(㎥) :6.55kg/㎥
・水道(㎥) :0.251kg/㎥
・灯油(l) :2.49kg/l
・ガソリン、軽油(l) :2.32kg/l
※(軽油の場合は「2.58」 )
・プラスチック類等(kg) :2.77kg/kg
なお、係数の数値については、厳密にはガス業者等で異なる場合があります。
あくまでも目安としてお使いください。
サプライチェーン排出量算定について
二酸化炭素の排出量を算定するにあたっては、事業者のみのCO2排出量を計算するだけでは不十分です。
事業活動に関連する原材料調達・製造・物流・販売・廃棄といった、一連の流れから排出されるCO2排出量全体を算定することが求められます。
そのような考え方を「サプライチェーン排出量算定」といいます。
以下に、サプライチェーン排出量算定について、概要をご紹介します。
サプライチェーン排出量算定が求められる背景
企業にサプライチェーン排出量算定が求められる理由は、国のCO2排出量計算のベースとなる基準について、生産ベースから消費ベースに世界の関心が移っている状況を当てはめると分かりやすいかもしれません。
事業者が直接排出しているCO2排出量のみならず、他社から供給されたエネルギーの使用にともなう間接的な排出量・事業者の活動に関連する他社の排出量について、算定・報告するために生まれた考えだからです。
製品に関するものだけでなく、組織のサプライチェーン上の活動にともなう排出量を算定対象とすることは、企業活動全体を管理することにつながります。
企業の環境経営指標・機関投資家の質問事項として使用される動きが見られるため、CO2排出量の計算について、今後より重視される考え方の一つになるでしょう。
サプライチェーン排出量算定におけるカテゴリ
サプライチェーン排出量算定にあたり、排出の種類は以下の3カテゴリに分かれています。
・Scope1:事業者自らによる温室効果ガスの直接排出
・Scope2:他社から供給された電気、熱、上記の使用にともなう間接排出
・Scope3:Scope1、2以外の間接的な排出
また、Scpoe3は以下の15カテゴリに分かれています。
・購入した製品、サービス
・資本財
・Scope1、2に含まれない燃料およびエネルギー関連活動
・輸送、配送(上流)
・事業活動から出る廃棄物
・出張
・雇用者の通勤
・リース資産(上流)
・輸送、配送(下流)
・販売した製品の加工
・販売した製品の使用
・販売した製品の廃棄
・リース資産(下流)
・フランチャイズ
・投資
その他、任意ですが、従業員・消費者の日常生活も含まれます。
算定するメリット
非常に細かい部分まで算定の対象となるサプライチェーン排出量算定ですが、真剣に取り組めば以下のメリットが期待できます。
・優先的な削減対象の特定(間接的に経営の合理化が実現する)
・他事業者との連携による削減(情報交換の機会が増える)
・CSR情報の開示(自社の活動に理解を示す購買層を増やすことにつながる) など
サプライチェーン排出量を要請する企業と新たな関係を築き、新規顧客の開拓につながる可能性もあります。
よって、今後の事業活動においてサプライチェーン排出量が重視されることは、社員一人ひとりの立場からも想定しておく必要があるでしょう。
おわりに
CO2排出量の計算は、報告義務のある企業はもちろん、報告義務のない企業・個人であっても、算定・報告を行うメリットがある行為です。
もちろん、ただ算定するだけでなく、排出量削減やイノベーションを目指す努力も求められます。
投資・クラウドファンディングなど、何らかの形でお金を集めたいという場合に、自分たちの活動を認めてもらいやすくなるかもしれません。
まずは、身近な数値を計算することから始めてみてはいかがでしょうか。
参考情報
CO2排出量の計算方法を解説 企業がCO2削減を始めるために|アスエネメディア
部門別CO2排出量計算シート|環境省
CO2の排出量、どうやって測る?~“先進国vs新興国”|資源エネルギー庁
地球温暖化対策推進法の一部を改正する法律案|環境省
この記事へのコメントはありません。