SDGsとは?そしてビジネスにとって意味するもの|松下教授シリーズ

[著者紹介]
松下 和夫(京都大学名誉教授)
環境行政、特に地球環境・国際協力に長くかかわり、国連気候変動枠組条約や京都議定書の交渉にも参画。持続可能な発展論、環境ガバナンス論、気候変動政策・生物多様性政策・地域環境政策などを研究。
松下 和夫 公式サイト


SDGs(エス・ディー・ジーズ)とはSustainable Development Goalsの略で、持続可能な開発目標ともよばれます。持続可能な世界を実現するために、2015年に国連で採択された2030年までの国際的な目標です。私たちが望む世界の姿を示す世界共通のビジョンです。数十年にも亘る国際的な議論をベースに、様々な関係者との協議を経て策定されたものです。

SDGsは、私たちが直面している数多くの深刻で複雑に絡み合った課題を解決し、持続可能で平和な世界を構築していくために作られました。持続可能で平和な未来を実現するために、環境、経済、社会面において達成していくべき17の目標(図1参照)と、その目標を達成するために必要な169のターゲットから成り立っています。そして、「誰一人取り残さない」を中心概念とし、貧困に終止符を打ち、不平等をなくし、気候変動をはじめとする環境問題に対処する取り組みを進めることを求めています
SDGs17のゴールアイコン
図1:SDGsに掲げられている17の目標をわかりやすい言葉でまとめたロゴ
出典:国連広報センター|2030アジェンダ

SDGsの本質

ではそもそもなぜSDGsができたのでしょうか。SDGsができた背景には、貧困、飢餓、差別、格差、気候変動、生物多様性の喪失など、地球と人類の存続のために解決を急がなければならない多くの重要な問題があったのです。

SDGsの本質的なポイントとして次の3点が挙げられます。

1.5つのP

SDGsの中核は、5つのPです。すなわち「人間(People)」、「地球(Planet)」、「平和(Peace)」、「繁栄(Prosperity)」という人類と地球にとって重要な要素に焦点を当てて、これらに関する課題に対して「パートナーシップ(Partnership)」を通じた行動を促しています

2.「誰一人取り残さない」という考え方

SDGsの中心的な理念は「誰一人取り残さない」という考え方です。その根底にはすべての人の人権を尊重する思想があります。SDGsはあらゆる形の貧困をなくすなど野心的な目標を掲げ、この目標に向かうにあたり、「誰一人取り残さない」としています。「すべての人が尊厳と平等の下に、そして健康な環境の下に、その持てる潜在能力を発揮することができることを確保する」と謳っています。「すべての人の尊厳と平等」を目指す理由が人権です。地球上のすべての人は、一人一人が尊い存在であり、貧困や飢餓のような人が尊厳をもって生きることを阻む問題を解決していこうという考え方がSDGsの根底にあるのです。

3.「地球の限界」との認識

持続可能な開発には環境、経済、社会の3つの側面がありますが、環境破壊が進み、資源が枯渇してしまっては、人類の経済、社会活動は成り立ちません。環境の健全性を理解するのに有益な概念がプラネタリー・バウンダリー(Planetary boundaries)です。この概念は地球の生物物理学的な限界を指しています
地球は負荷がかかり過ぎると回復力を失い、大きく変動し、人類に望ましくない状態に変わってしまいます。図2に示されるように、地球が健全な状態を保つのに重要な9つのプラネタリー・バウンダリーのうち、気候変動、生物多様性の損失、地球規模の土地利用の変化、生物地球科学的循環(窒素と淡水域におけるリン)の4つは限界値を超えてしまい、すでに危険域に入っています。
このような結果をもたらした大きな原因は人間の活動
です。SDGsは地球に大きな負荷をかけてきたこれまでのやり方を変革する挑戦でもあるのです。
プラネタリー・バウンダリーのイラスト
図2:プラネタリ―・バウンダリー(2014年の更新)
出典:J.ロックストローム、M.クルム(2015)『小さな地球の大きな世界』(日本語版、2018)

SDGsとビジネス

2015年12月に採択された気候変動対策としての「パリ協定」と相まって、SDGsは今や、世界を大きく変える「道しるべ」となっています。政府や⾃治体だけでなく、⺠間企業でも本格的な取り組みへの気運が国内外で高まっています。とりわけビジネスの世界では、経営リスクを回避するとともに、新たなビジネスチャンスを獲得して持続可能性を追求するためのツールとして、SDGsの活用が注目を集めています

SDGsの活用により広がるビジネスの可能性は以下のように考えられます。

1.経営リスクの回避とビジネスチャンスの獲得

企業が行う事業活動は、環境に何らかの影響を与えています。そのため事業者が環境の持続可能性を意識した取組を実践することは、企業を持続可能なものとする上で不可欠です。また、事業活動が環境に与える影響を把握することで、事業者は潜在的なリスクを把握し、新たなビジネスチャンスを見つけることが可能になります。

例えば、気候変動や生物多様性の損失は、企業にとってはリスク要因であると同時に、他社との差異化を図りビジネスチャンスにつなげる機会でもあります。

SDGsには、社会が抱える課題が包括的に網羅されているので、企業にとってはリスクとチャンスに気付くためのツールとして用いることができ、SDGsへの取組によって、リスクをチャンスに変えることができます。

2.SDGs の活用によって広がる可能性

SDGsの基本理念は、“誰一人取り残さない”ことです。企業は消費者を含めた様々なステークホルダーと連携しSDGsの実現に向けた積極的な取組を実施することで、目標達成に貢献することが期待されています。既に取組を始めている企業では、CSR報告書においてSDGsと⾃社事業の関連性について言及するなど、具体的な活動を始めています。

今やSDGsは市場に大きな変化をもたし、SDGsを無視した事業や活動は⻑期的に成り立たないことが示されています。またSDGsのゴールやターゲットに示された内容は、世界が直面する社会課題を網羅しているので、その解決を模索することはビジネスにおけるイノベーションを促進する可能性を持っています(図3)。
SDGsの活用により広がるビジネスの可能性
図3 SDGsの活用により広がるビジネスの可能性
出典:環境省(2018)「すべての企業が持続的に発展するために‐持続可能な開発目標(SDGs)活用ガイド

3.企業活動と SDGs の関わり

SDGsが関係するのはグローバルな取組だけでなく、企業が⾏う事業そのもの、日常業務における節電や節⽔、社員の福利厚生など、企業活動のすべてがSDGsとつながっています。

SDGsのゴールとターゲットから、自社の取組とのつながりが確認できます。そこから、自社の強みは何であるかを改めて⾒直したり、SDGsに示された課題を解決できる自社の潜在能⼒に気づくことができます。

持続可能な会社にするためには、今の社会のニーズだけでなく将来のニーズも満たすような事業展開が必要です。SDGsを掲げた企業経営によって、持続可能な企業へと発展していくことができるのです。

4.企業がSDGsに取り組むステップ

企業がSDGsに取り組むステップとしては、すでに国際的にも普及して多くの企業で活用されている「SDGs Compass」(GRI、国連グローバル・コンパクト、WBCSD (2016)、日本語訳、2016年3月公開)を参照できます。ここでは以下の5つのステップに分け、企業がSDGsにアプローチする段階を紹介しています

  1. SDGsを理解する:SDGsとは何か?ということを社員が知るステップ。
  2. 優先課題を決定する:自社の事業のバリューチェーンを作成し、SDGsの17の課題にプラスまたはマイナスの影響を与えている可能性が高い領域を特定し、事業機会や事業リスクを把握する。
  3. 目標を設定する:目標におけるKPI(主要業績評価指標)を設定する。
  4. 経営へ統合する:設定した目標や取り組みを自社の中核事業に統合し、ターゲットをあらゆる部門に取り込んでいく。
  5. 報告とコミュニケーションを行う:SDGsに関する進捗状況を定期的に、ステークホルダーに報告し、コミュニケーションを行う。

SDGs Compass
図4 SDGsコンパス (出典:GRI、国連グローバル・コンパクト、WBCSD (2016)、SDG Compass Guide [英語版]|[日本語版

今後、企業はSDGsをビジネスの芽として捉え、事業の強化、拡大更には新しい事業展開をし、社会貢献にとどまらず、本業を通じたSDGsへの貢献(すなわち「SDGsの本業化」)が求められています。持続可能な社会の構築には、中核的事業とあわせて、市場環境を整備するための取組みや、社会貢献性の強い事業に関わる活動を進めることも重要です。

こうした活動がコストではなく投資と見なされるためには、野心的な中長期の経営計画や戦略の中にSDGsの要素が組み込まれていることが必要です。

さらには会社の存在意義を示す企業理念に根ざした企業活動とSDGsが結びつくと、社会の中での役割がより明確になり、社員の仕事への強いコミットメントも生まれます。また、経営トップのリーダーシップ、社内外での対話とパートナーシップ、企業理念に立ち返ることが本業化を進める鍵です。

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