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脱炭素社会は温室効果ガスを全く出さない?IPCC最新報告と日本の取り組みも解説

脱炭素社会

昨今の日本で注目されるカーボンニュートラルという単語ですが、似たような意味・概念としてとらえられているものの一つに脱炭素社会があげられます。
実際のところ、それぞれが意味するところはニュアンスが違うものの、お互いに強い関連性があります。

そして、脱炭素社会の実現は、決して絵空事で終わらせてはいけない人類の課題とも言えます。

世界各国の科学者・専門家で構成される「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」が発表した第6次評価報告書 政策決定者向け要約(2021/9/1付暫定訳)』には、人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がないと記されています。

具体的には、熱波・大雨・干ばつ・熱帯低気圧のような極端現象を観測したところ、原因が人間によるものという証拠が強化されていることが今回初めて「断言」されました。

わかりやすく言えば、現在の気候変動が起こっているのは「人間のせい」であり、地球の将来を考えたとき、脱炭素社会は「人間によって実現しなければならない課題」だと認められたのです。
この記事では、脱炭素社会とはどのようなものか説明するとともに、なぜ実現が必要なのかをIPCCの報告から紐解きつつ、具体的な日本の取り組みをご紹介します。

脱炭素社会とはどんな社会なのか

カーボンニュートラル 脱炭素 渡り鳥
脱炭素社会という名称から、完全に炭素に依存しない社会をイメージする人も多いと思いますが、実際の意味合いは異なります。
この点について解説しつつ、脱炭素社会とはどのような社会なのか、簡単にまとめました。

温室効果ガスを実質的に「排出量ゼロ」にした社会

脱炭素社会とは、地球温暖化の原因となる温室効果ガスを、実質的に排出量ゼロにした社会のことをいいます。
実質的に、というのは、完全に温室効果ガスそのものを地球上から消滅させるのではなく、ガスの排出はするけれども何らかの形で回収して、結果的に温室効果ガスの排出量と回収量を合わせてプラスマイナスゼロにすることを意味します。

これを実現するためには、人類の長年の課題であった温室効果ガスの「排出量の削減」だけにとどまらず、どうしても排出が避けられない分をきちんと回収する技術・仕組みの構築・運用が求められます。
具体的には、コンクリートの混和材に二酸化炭素(CO2)を吸収する材料を使った「CO2吸収型コンクリート」や、排ガス中のCO2を再利用した化粧品用ポリエチレンなどが該当します。

CO2削減の夢の技術!進む「カーボンリサイクル」の開発・実装|経済産業省 資源エネルギー庁 

カーボンニュートラルとの違いとは

脱炭素 カーボンニュートラル 森

次に、脱炭素社会と関係の深い、カーボンニュートラルの意味についても触れておきましょう。
カーボンニュートラルとは、ライフサイクルの中でCO2の「排出量」と「吸収量」をトントンにする、つまり同量にするという意味です。

概念は非常に奥深いものですが、あえて端的にまとめると、

【世界中の植物の光合成によるCO2の吸収量=世界中で生物が排出するCO2の排出量】

上記の公式が成立する状態が、カーボンニュートラルなのです。

つまり、カーボンニュートラルとは「脱炭素社会を実現するための方法論の一つ」であり、脱炭素社会は「カーボンニュートラルその他環境への配慮によって実現する社会の理想像」を意味しています。

ただし、これはすべての国・企業・個人が平等にカーボンニュートラルを実現する状況を意味しているわけではありません。
残念ながら、世界経済・インフラ事情を考慮したとき、CO2・その他温室効果ガスの排出量を各国一斉にゼロにするのは厳しい状況にあるでしょう。

そこで、誰かが排出し過ぎた分を、他の誰かが排出量を抑えた分で補うことで、最終的にカーボンニュートラルを実現することも認められています。
日本を例にとると、ある企業が削減困難な部分について、他の企業・組織が削減した分をクレジットとして購入することも環境省は想定しています。

この仕組みは「​オフセット・クレジット(J-VER)制度 」として、2008年11月からスタートしています。

低炭素社会ではいけないのか

カーボンニュートラル 低炭素 脱炭素 森
過去には、脱炭素といった極端なものではなく、温室効果ガスの排出を低めに抑える「低炭素社会」の実現が世界的課題となっていました。
しかし、かつて発展途上国と呼ばれた国々が産業を発展させてきたことで、先進国だけが温室効果ガスの排出を制限するだけでは効果が期待できなくなりました。

そのような事情もあってか、2015年にフランス・パリで採択された「パリ協定」をきっかけとして、脱炭素社会の実現に向けた動きが各国で本格化していきます。
世界共通の目的も具体的になり、長期目標として「産業革命前からの平均気温の上昇を2℃より十分下方に保持、1.5℃に抑える努力を追求」と、具体的な数値も含めた目標が定まりました。

なぜ、世界各国が、同じ方向に歩みを進めることを決めたのか。
それは「世界中で温暖化の影響が深刻化している」からです。

パリ協定の「産業革命前から2℃以下に気温上昇を抑える」という世界目標の根拠は、この2℃という数値にあります。
これ以上平均気温が上昇してしまうと、大型台風が爆発的に発生したり、水不足や食料不足などの問題が深刻化したりと、地球に住むわたしたちにとって非常にネガティブな影響が想定されます。

単純に温室効果ガスの排出を減らすだけでなく、ゼロにしなければ、いつまでも本質的な問題は解決しないということなのです。

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の評価

干上がった土地
※2021年9月24日現在の情報です

2021年8月9日に発表された「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)『第6次評価報告書 政策決定者向け要約』暫定訳(2021/9/1付)では、気候の現状や将来ありうる気候・リスク要因など、幅広い観点から気候変動にともなう問題と人間活動の影響がまとめられています。

IPCC AR6/WG1報告書の政策決定者向け要約(SPM)の概要|環境省 

その中から、特にわたしたちが知っておかなければならない知識に的を絞り、抜粋してご紹介します。

人間活動は、気候システムの主要な構成要素すべてに影響

当然ながら、人間活動が気候システムにもたらした影響は、昨日今日の話ではありません。
数十年~数百年単位で継続しているものもありますし、主要な構成要素にはすべて影響をもたらしています。

各種シミュレーションを見る限り、将来的に以下のような可能性が想定されます。

・世界平均気温の上昇は避けられず、シミュレーションによっては2050年以降の気温上昇が急速に進む
・9月の北極海の海氷面積は、今世紀半ばごろには実質的に氷のない状態になる
・世界全体の海面付近のpH上昇が進む
世界平均海面水位はどのシミュレーションでも上昇している

また、世界平均海面水位に関しては、可能性こそ低いものの、実現すれば影響の大きいストーリーラインも示されており、2100年時点で水位上昇が1.5mを超えるという予測もグラフに示されています。

ほぼ世界中のすべての地域が極端な高温に寄与

気候変動の影響は、すでに人間が居住するすべての地域において及んでいるものと考えられています。また、人間の影響は、気象や極端気候に観測された多くの変化に寄与していることも分かっています。

特に「極端な高温」に関しては、アジア・アフリカ・欧州・北米・南米など、非常に多くの地域で人間の関与に関する確信度が高いとされています。
低いとされているのはごく一部であり、その地域でさえ極端な高温に観測されています。

大雨」に関しては、欧州の一部地域で人間の関与に対する確信度が高いとされていますが、ほとんどの地域で確信度は低いとされています。
とはいえ、アジア・欧州の広範囲で大雨に観測された変化は増加しているため、こちらも今後人間の関与がより明確になるものと思われます。

農業及び生物学的干ばつ」の増加も観測されていますが、こちらは人間の寄与の確信度が高いと判断されている地域はないものの、中程度の確信度の地域は見つかっています。
今後、観測を続ける中で、よりハッキリとした傾向が見られるかもしれません。

CO2正味ゼロは「最低限」の課題


自然科学的見地から、人為的な地球温暖化を特定のレベルまで制限するために求められることは、以下の内容です。

CO2の累積排出量制限
CO2正味ゼロ排出を達成
・その他温室効果ガスを大幅に削減

要約の中で、CO2正味ゼロ排出は「少なくとも」と記されており、あくまでも最低限の課題であると表現されています。
また、大気質の改善という観点からは、メタン排出の大幅な、迅速かつ持続的な削減によって、エーロゾル(大気中の微粒子)の汚染の減少にともなう温暖化効果を抑制する必要がある旨が記されています。

要するに、CO2削減は気候変動・気温上昇の問題解決の入口部分であり、根本的解決のためにはより高次の問題を解決しなければならないのです。

日本はどのような取り組みを行っているのか

実現に向けて行動するには、あまりにも課題の規模が大きな「脱炭素社会」。
しかし、日本でも着実に新たな取り組みを見せている企業・自治体が目立ってきました。

続いては、脱炭素社会の実現を目指し新たな取り組みを見せる企業・自治体の情報についてご紹介するとともに、個人単位でできる取り組みについても考察します。

企業の取り組み

まずは、日本企業の中で、「脱炭素社会の実現」に向けて具体的な取り組みを行っている企業をいくつかご紹介します。
自社の事業に関連する分野から取り組むスタンスは、他社の立場からも参考にできる部分があるはずです。

RICOH(リコー)

環境経営の推進©Ricoh
リコーグループでは、脱炭素社会の実現に向けて、以下の3つの視点から取り組みを行っています。

・脱炭素社会実現に貢献する技術開発
・省エネ・再エネ関連ビジネスの提供
・自社の事業活動における脱炭素化

技術開発の具体的な事例としては、複合機の省エネモードからの復帰時間短縮、物流の現場で発生する大量の紙ゴミを削減するための新技術開発などがあげられます。
省エネ・再エネ関連のビジネスとしては、脱炭素に関するさまざまなソリューションサービスの提供を行っており、一例としてオフィスにおけるコスト最適化・業務プロセス改善を行うマネージド・プリント・サービス(MPS)などが知られています。

その他、高効率加湿システム・太陽光発電システムの導入も、事業活動における脱炭素化につながる取り組みに数えられます。

環境経営の推進 脱炭素社会の実現

ASKUL(アスクル)

アスクルは、2030年に向けて電気自動車の導入を順次進めてまいります。
© ASKUL Corporation
アスクルでは、地球温暖化による気候変動について「事業活動に多大な影響をもたらすリスク」ととらえ、サプライチェーン全体でのCO2削減に取り組んでいます。
2030年までにアスクルグループの事業所・物流センターすべてに再生可能エネルギーを100%導入することを目指し、2020年時点でグループ全体における電力使用量の34%を再生可能エネルギーに切り替えています。

その他、個人向けサービスのラストワンマイルに日産の電気自動車を導入・CO2削減貢献量の見える化などの取り組みが、コーポレートサイトで紹介されています。

​​サステナビリティ報告 気候変動・脱炭素

竹中工務店

竹中工務店のZEB
©Takenaka Corporation
竹中工務店では、2010年からエネルギー削減目標を設定し、ゼロエネルギービル(ZEB)の実現に取り組んでいます。
ZEBとは、LED照明・雨水利用による空調効率の向上などによってエネルギー消費量を削減しつつ、太陽光発電などで創出したエネルギーで自給する建物のことです。

その他、環境に配慮したソリューションの例として、コンクリートのCO2排出量を6割削減できる「ECMコンクリート®」や、現地組み立てが可能なダンボール材を使ったダクト「エボルダン®」など、数多くの秀逸なデザインが生まれています。

環境配慮

自治体の取り組み

北海道下川町
© NPO法人しもかわ観光協会
企業だけでなく、自治体ベースで脱炭素社会の実現に向けて具体的な取り組みを進めているところもあります。
今回は目立った一例として、北海道下川町を取り上げます。

下川町は、北海道・上川地方にある町で、かつては農林・鉱業で栄えた歴史を持っていましたが、時代の流れから鉄道も廃止され、深刻な過疎化に悩まされていました。
しかし、2000年代から豊富にある森林に目を向けて、森林の恵みを有効に活用する「ゼロエミッション」に力を注いでいます。2011年には環境未来都市に選定されました。

具体的には、原木を加工して生まれるオガコ・端材を原料とする木質バイオマスボイラーの導入、重油ボイラーの使用頻度を減らすための地域熱供給システムなど、木材を余すところなく使う仕組みが整っています。
ふるさと納税で1t分のカーボンオフセットの証明書を発行する形で、バイオマスエネルギー利用によるCO2削減量を返礼品として用意できるほど、成果が出ているのは驚くべきことです。

こうした努力の結果、下川町に興味を持ち移住する人が増えてきているのです。

町と森と 木の一生 >森をいかす
移住者インタビュー
CO2(二酸化炭素)削減量 1t

個人でできることは?

ここまでお伝えしてきた取り組みを個人単位で行うことは、試みとしては不可能ではないかもしれませんが、非常に難しいものと思います。
ただ、社会は個人が集まって形成されるものですから、個人の意識を高めることが脱炭素社会の実現を早めることは疑いありません。

SNSの普及によって、個人が世界に与える影響は決して無視できないものになっています。
例えば、基本的な省エネ対策の実践を身近な形でアップし続ければ、誰かが興味を持ってくれるかもしれません。

他には、自分が使ってみて便利だった・有益だったモノの情報を発信する方法もあります。
一例として、使い終わった後ですぐに・キレイにたためるエコバッグ「シュパット」など、エコでありながら機能性にも優れている商品なら、多くの人の興味を引くはずです。

Shupattoのこだわり|株式会社マーナ

おわりに

脱炭素社会の実現は、地球で暮らすすべての人類の課題であることが、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第6次評価報告書によって「改めて」示されました。
個人単位でできることは限られるものの、わたしたちが社会の一員として、日々の仕事・暮らしの中で心掛けていけることは数多くあるはずです。

大事なことは、現実から目を背けないこと。
なるほど、秀逸、と感じた企業・自治体の事例を応援するなど、自分にできることから取り組みを始めてみましょう。

※参考ページ
脱炭素社会とは?日本の課題や取り組み事例|アピステ 
脱炭素社会とは?実現へ向けた国内企業の取り組みと事例、製造業に求められる対策|日研トータルソーシング 
脱炭素化とは?脱炭素社会に向けて今取り組むべきこと|エバーグリーン・マーケティング 
IPCC 第6次評価報告書 第1業部会(WG1)報告書 気候変動 2021:自然科学的根拠 政策決定者向け要約』暫定訳(2021/9/1付)|国土交通省 気象庁 

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