【徹底比較】置き配用の「運送約款」とは?(最新版)
コロナ環境下で一気に普及した「置き配」ですが、実は置き配にも約款が存在することを知っていましたか?
今回は、そんな置き配の約款では、通常の宅配の約款に比べて何が違うのか、配送大手三社の中で、置き配用の約款を公開しているヤマト運輸株式会社(以下、「ヤマト運輸」)を事例に比較してみました。
置き配の観点から話をすると、ヤマト運輸のサービスは、通常の宅配便である「宅急便」と通販サイトからの荷物を置き配を含んだ非対面配送も選択できる「EAZY」という2つのサービスに分類されます(※1)。
皆さんもマツコデラックスさんが出演されているテレビCMを見たことがあると思います。通常の宅急便とEAZYの違いがわからない人も多いと思いますが、図1のような関係になっています。
EAZYは、通販利用率の増加を背景に考えられたサービスであることもあり、ZOZOTOWNなどのEAZYのシステムを導入した特定の通販サイトから出荷される荷物が対象になります。その他の荷物はほとんどが宅急便での取扱となります(※1のネコポス等は除く)。
※1 厳密には、商品・サービスに係る約款として、ヤマト運輸では上記2つの他、「宅急便コンパクト約款」「ネコポス約款」等の約款が存在しますが、今回は通常の宅急便と置き配可能なEAZYに絞って解説します。
図1 出典:ヤマト運輸 法人のお客様「EAZY」
宅急便とEAZYは、約款が分かれており、それぞれ「宅急便約款」と「EAZY約款」として定められています。
※そもそも運送約款て何?という方はまずはこちらをご覧ください。
では、早速、宅急便約款とEAZY約款では何が違うのかみていきましょう。
宅急便とEAZYの「約款」上の違い
まず、全体を見渡すと、EAZY約款は許可年月日が2020年11月となっており、EAZYがサービスとしてリリースされた2020年6月11日以降でも改訂が入っていることがわかります(ヤマト運輸の「EAZY開始」ニュースリリース)。
また、両約款とも章構成は全6章となっており、約款の構成に違いはみられませんが、章を構成する条項数は宅急便が全29条であるのに対し、EAZYの方は全31条と、2つ多くなっているのがわかります。章は、第一章「総則」、第二章「運送の引受け」、第三章「荷物の引渡し」、第四章「指図」、第五章「事故」、第六章「責任」で構成されています。
宅急便約款 | EAZY約款 | |
認可年月日 | 2019年4月1日 (関自貨第3490号) | 2020年11月11日 (関自貨第1070号) |
章数 | 6 | 6 |
条項数 | 29 | 31 (第三章第十条、十一条が追加) |
次に、条項の差異の詳細を比較表(表1)にまとめてみました。この表の後にまとめてポイントを解説しています。
※多少の文言の言い換え等、文意に変化がみられないものは、無視できる差異として、比較表には載せておりません。差異を一文字一句比較したい場合には各原本をご参照ください。「宅急便約款」と「EAZY約款」
表1
条項 | 宅急便約款 | EAZY約款 |
第二章 (出荷情報) 両約款:第三条 | 当店は荷物の運送を引き受ける時に、次の事項を記載した送り状を荷物一個ごとに発行します。この場合において、第一号から第六号 までは荷送人が記載し、第七号から第十六号ま では当店が記載するものとします。ただし、第十一号は記載しない場合があります。 一 荷送人の氏名又は名称、住所、電話番号及び郵便番号 | 荷送人は、当店に荷物の運送を依頼するにあたり、あらかじめ次の事項(以下「出荷情報」 という。)を荷物一個ごとに当店所定の電磁的方法により当店に対し通知するものとします。 一 荷送人の氏名又は名称、住所、電話番号及び 郵便番号 |
第二章 (外装表示) 宅急便約款:第七条 | (右記を見ると同様の内容は宅急便約款の場合には、上記第三条に概ね含まれている) 当店は荷物を受け取るときに、第三条第一項第一号から第八号まで、第十号、第十一号(記号のない場合を除く)及び第十四条から第十五号までに掲げる事項その他必要な事項を記載した書面を荷物の外装にはり付けします。 | 荷送人は、当店に荷物を引き渡すまでに、 前条第一号から第六号まで、及び次の各号に掲げる事項その他必要な事項を記載した書面(以下「貼付票」という。)を当店所定の方法(法令に反しない範囲で、二次元コードその他の形式で記載することを含むが、これに限られない。)で出力し、荷物の外装に貼り付けるものとします。 一 宅配便名 2 当店は貼付票記載の受付日(以下「記載受付日」 という。)にかかわらず、荷送人が当該貼付票を荷物に貼付し、これを実際に当店に引き渡した日 (以下「実受取日」という。)をもって、当店が当該荷物の運送を引き受けたものとみなします。 |
第三章 (置き配)新設 宅急便約款:該当なし | 該当なし | 第十条 当店は、荷物の買主の指示により、荷送人 が当店に対して次の各号に定める方法(以下「置き配」という。)による荷物の引渡しを容認して依頼し、かつ、荷受人が引渡しまでの間に指定場 所(以下に定義する。)又は指定者(以下に定義 する。)を指定した荷物について、置き配による 荷物の引渡しを行います。 一 玄関ドア前、自転車かご、車庫、物置、安全な管理及び保管が可能である荷物受け渡し専用保管庫(以下「宅配ボックス」という。)、 郵便受けその他の当店が荷物の置き場として 社会通念に反しないと認める場所として荷送人及び荷受人にあらかじめ通知した場所であり、かつ、荷受人の住所と同一の建物内又は 同一の構内である場所の中から、荷受人が引渡しまでの間に指定した場所(以下「指定場所」という。)に荷物を置く方法 2 前項の場合、当店は、荷物を指定場所に置き、 又は指定者に対して引き渡すことをもって、荷受人に対する引渡しとみなします。 3 当店は、第一項にかかわらず、次の各号に掲げ る場合、置き配による荷物の引渡しの依頼を拒絶することがあります。この場合、当店は、置き配 による荷物の引渡しを行いません。 一 荷物一梱包の価格が十五万円を超えるものである場合 4 当店は、第一項にかかわらず、次の各号に掲げ る場合、置き配による荷物の引渡しを行ってはならないものとします。ただし、第一号又は第七号 に掲げる場合であり、かつ置き配による荷物の引渡しを行う旨の荷受人からの特段の指示がある場合は、この限りではありません。 一 悪天候により引渡し後の荷物の安全が確保できないと判断される場合 (対面での引渡し方法) 一 配達先が住宅の場合 その配達先における同居者又はこれに準ずる者 |
ポイントを整理してみましょう。
ポイント①:EAZY約款では「通販サイト」の商品であることがより明確になっている(第二章第三条)
EAZYは通販サイト由来の宅配物に適用されることから、通販サイトである「荷主」が出荷情報の発信元となり、電磁的方法(API連携(※))で情報共有が行われるように記載されています。また、荷主からヤマト運輸への共有情報にはメールアドレスも含まれています。そして、ここで「置き配実施の可否及び荷受人の希望する配達方法」という情報も共有されることが新規追加されています。
これはどういうことでしょうか?
現在、荷主である通販サイトがEAZYを導入する方法は下記2つあり、それぞれで、荷主もしくはヤマト運輸が荷受人(=一般消費者/商品購入者)から「置き配実施の可否及び荷受人の希望する配達方法」が異なります。
(1) お届け予定通知より受け取り方法のご指定が可能なオンラインショップ
(2) ご注文時・もしくはお届け予定通知より受け取り方法のご指定が可能なオンラインショップ
上記(1)と(2)の違いは通販サイト(オンラインショップ)での購入時に、通販サイトの購入画面上に「置き配」の選択肢が表示されるかどうかです。EAZYサービス開始当初に導入可能であった方式が(1)で、EAZY発表直後にEAZYを採用したZOZOTOWNはこちらの方式です。つまり、ZOZOTOWNの購入画面では「置き配」の選択肢は表示されず、購入後にヤマト運輸から配信されるメール内のリンクから「置き場所」の指定が可能になっています(2021年5月7日時点)。
これはヤマト運輸が、直接、荷受人から置き配の可否情報を取得することを意味します。一方、(2) の方式の発表時にEAZYを採用したアダストリアの.st(以下、「ドットエスティ」)は、購入画面で「置き場所」の指定が可能になっています(=荷主が直接荷受人から置き配の可否情報を取得して、その後API連携)。
※API連携: Application Programming Interface)とは、広義ではソフトウェアコンポーネント同士が互いに情報をやりとりするのに使用するインタフェースの仕様のこと。API連携は、APIを活用した複数のアプリケーション(サービス)同士の連携。システムやサービスのアプリケーション0から開発する必要がなく、簡単に他のサービスと連携し、サービスを拡張することができる。 DiGiLAB(GMOデジタルラボ株式会社)
ポイント②:「置き配」に関する条項の新規追加(第三章)
EAZY約款の第三章(荷物の受け渡し)に「置き配」という項目が追加されたのが(第三章第十条、十一条)、両約款での最大の違いであり、「置き配用」の約款の特徴になっている部分です。
まず冒頭の第十条で、「置き配」が可能な荷物を次のように定義しています。
荷物の買主の指示により、荷送人が当店に対して次の各号に定める方法による荷物の引渡しを容認して依頼し、かつ、荷受人が引渡しまでの間に指定場所または指定者を指定した荷物について、置き配による荷物の引渡しを行います。
通販サイトの一般的な商流に当てはめると、買主(=一般消費者)が指示して、それを荷送人(=通販サイト)が置き配を容認した場合に、ヤマト運輸は置き配を実施することになります。上記した、ZOZOTOWNやドットエスティでの購入動線内での手続きは、方法は異なりますが、両者とも約款上で定められた方法に則っていることがわかります。
次に、置き配可能な条件として、大きいのが非対面での「引渡し場所」になります。
下表(表2)はEAZYウェブサイト上で記載のある配送先選択肢とEAZY約款に記載のある場所の比較表です。
約款では、引渡し可能な場所として①「玄関ドア前」、②「自転車かご」、③「車庫」、④「物置」、⑤「安全な管理及び保管が可能である荷物受け渡し専用保管庫(=宅配ボックス)」、⑥「郵便受け」、⑦「その他の当店が荷物の置き場所として社会通念に反しないと認める場所として荷受人及び荷受人にあらかじめ通知した場所」の7つの選択肢があります。
EAZYのサイト上の受け取り方法には「建物内受付/管理人預け」もありますが、これは約款上の第十条二「荷受人の住所と同一の建物の受付担当者、管理人又はこれに準ずる者の中から、荷受人が引渡しまでの間に指定した者に対して荷物を引き渡す方法」に該当します。さらに、⑦としては、「ガスメーターボックス」が該当しています。
表2
掲載場所 | 配送場所の選択肢 |
ヤマト運輸「EAZY」ページ | 対面、玄関ドア前、自転車かご、車庫、物置、宅配ボックス、ガスメーターボックス、建物内受付/管理人預け |
EAZY約款 | 玄関ドア前、自転車かご、車庫、物置、宅配ボックス、 その他の当店が荷物の置き場所として社会通念に反しないと認める場所として荷受人及び荷受人にあらかじめ通知した場所 |
また、上記の置き場所を消費者が指定すれば、原則、指定した場所への配送が行われますが、約款では置き配の懸念材料である「安全性」に関して、金銭面、天候面、その他現場環境で条件が満たされない場合には置き配を行わないという文章が記載されていいます。
金銭面:荷物一梱包の価格が十五万円を超えるものである場合
天候面:悪天候により引渡し後の荷物の安全性が確保できないと判断される場合
現場環境:指定場所に荷物が安全に収まらないと判断される場合
ポイント③:引渡し可能な場所の選択肢
ヤマト運輸では引渡し可能な場所として7つの選択肢が明記されていましたが、置き配の選択肢は配送会社により若干の違いがあります。
ここでは代表的な4社の引渡し場所を見てみましょう。基本的な選択肢は同じになっていますが、日本郵便やRakuten EXPRESSでは宅配ボックスと、簡易宅配ボックスであるOKIPPAのような製品を分けて表示しています。
配送会社 | 非対面で引渡し可能な選択肢 |
ヤマト運輸「EAZY」 | 玄関ドア前、自転車かご、車庫、物置、宅配ボックス、ガスメーターボックス、建物内受付/管理人預け |
日本郵便「置き配」 | 玄関前鍵付容器(OKIPPA等)、玄関前、宅配ボックス、メーターボックス、物置・車庫 ※日本郵便の場合には、OKIPPA設置の場合には「指定場所配達の依頼書」の提出が不要になります。詳細はこちら |
Amazon「置き配指定」 | 玄関、宅配ボックス、ガスメーターボックス、自転車かご、車庫、建物内受付 |
楽天EXPRESS「置き配について」 | 玄関、ガスメーター、自転車、宅配ボックス、車庫内、建物内管理人預け、OKIPPA ※OKIPPA預入れの選択肢についての詳細はこちら ※楽天株式会社運営の配送サービス「Rakuten EXPRESS」は2021年5月31日をもって終了しました。これに伴い、対象店舗で購入した商品配送がRakuten EXPRESS配送である場合に「置き場所指定」の選択肢としてOKIPPAが表示される「OKIPPA便」も同日終了いたしました。 |
まとめ
置き配用の運送約款への理解は深まりましたでしょうか?
約款は、配送人が荷主と荷受人の間で適切に配送を行うための基準となる取り決めになります。特に、非対面での置き配は、対面が基本となる宅急便と比較して、引渡しに大きな違いがあり、通常の宅急便での配送よりも配送完了後の盗難や破損の新規リスクを伴うと言えます。そのため、置き配用の約款では、置き配を実施するための「条件」と配送の「安全性」を確保するための条項について丁寧に定められている印象です。
一方、ヤマト運輸の事例紹介ページによると、アダストリアの通販サイトでEAZYを導入した後は、置き配の利用率が非常に短い期間で20%以上になり、荷受人の需要が高いサービスであることがわかります。
また、再配達削減率は約50%減と、こちらも再配達率削減において非常に高い効果があることが実証されています。置き配を利用して再配達率を削減することができると、配送トラックからの排出CO2が抑制できます。
より再配達が少なく、配送効率の高い「置き配」は一定のリスクがあるものの、今後も増加傾向にある通販利用率を考えても、社会をサステナブルに維持するためにも積極的に活用していくべき配送方法、かつ、受け取り方の一つだと思われます。
最後に、置き配による盗難が心配という方は、設置工事なしで手軽に導入できる置き配バッグOKIPPA(オキッパ)等の簡易宅配ボックスもたくさん商品化されていますので、ぜひそちらも検討してみてください。
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